お父さんへの美味しいお返し

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お父さんは、私がまだまだ若い頃、「お前に怖いものがあるのか?」って

ふと聞いてきたことがありましたね。

冗談かと思っていたら、真顔のお父さん。

一体自分はどう見られているのか、複雑な思いでした。

そんな私も、どうにか理解のある夫と出会い子供にも恵まれました。

性格ゆえに子育てでもずいぶん悩み、あの頃は、実家にとても世話になりました。

ついに育児ノイローゼ寸前になったときに、とてもいい牛肉をプレゼントしてくれましたね。

「これを食べて、とにかく寝なさい。」

お父さんは、私を励ます時はいつも食べ物でしたね。

泣きながら食べた和牛はとても美味しくて食べ終わったときには、涙が止まりました。

ただ、良いお肉を焼いて塩コショウだけでとてもとても美味しかったです。

そう言えば、風邪をひいたら「お前だけで食べなさい」と、

上等のカステラを1本買ってくれましたね。

ずしりと重くてザラメのたっぷりついたカステラを1本食べきる頃には、治っていたので

ずっと風邪には上等のカステラが効くと思い込んでいました。

お父さんなりに考えた栄養のあるものを贈ってくれていたのですね。

いつまでも、親がこの世にいるものだと思い込んでしました。

けれど、そんな思いは吹き飛ばされることがありました。

それは、お父さんに胃がんが見つかったこと。

幸い初期の発見だったので、半分切除で済みましたがお父さんの食生活がかわりましたね。

今、私の怖いものを聞かれたら「お父さんとお別れすること」です。

食生活が安定したら、思いつく限りの美味しいものをお届けします。

上等のカステラも、あっという間に口の中に溶けるような和牛も。

ありがとうなんて言うのは禁止です。

お礼を返しきるまで、お別れなんて絶対ダメです。

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