じじのサンダル。

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じじへ

小学校低学年の私の日課。
それは学校から帰ってきたらまず、じじを驚かすこと。

仕事場の前にきちんと並んだサンダルが置いてあると
あなたがいる合図。

ドアを勢い良く開けて、
「ただいまー!」という日もあれば、

ドアをそーっと開けて、
「ただいま…。」と怖がらせようとする日もあって。

そうすると、あなたはきっと内心びっくりしているのに
平然を装って「おう、おかえり。」と言ってくれました。

これが唯一の、
不器用なあなたと私のコミュニケーション。

それから小学校高学年になり、
ちょっと反抗的な態度をとるようになったよね。

いつからか、
あなたを驚かすこともしなくなって、
危ない遊びをしてあなたに注意されることも増えて。

「じじはもう、私のこと可愛くなくなったんだろうな。」
そう思うようになり、
以前よりあなたとの間に距離を感じるようになりました。

そしてある日、あなたは入院しました。
ガンでした。

その日から、あの几帳面に揃えられたサンダルを見ることはなくなりました。

お見舞いに行った日の帰り際、
一度病室を出かけた私は、ふともう一度あなたの所へ戻って
あなたとハイタッチをしたね。

きっと悟ったのだと思います。

本当はあの時、抱き合いたかった。
でも思い返すと唯一家族の中であなたには抱きしめられた事がなかったから、
どうしていいかわからなかったんだ。

それから間もなくして、
あなたは天国に旅立ちました。

私が塾で受験勉強をしている最中のことでした。

亡くなる間際、
病室のドアが開く音がするたびにあなたが
「りな子が来たか、りな子が来たのか。」
と言っていたと祖母から聞きました。

これを書いている今も涙が止まりません。

あの時も私の帰りを待っててくれていたのかな。

私が驚かすのを楽しみにしていてくれたのかな。

最後に一度だけ、あなたを驚かせることができたなら。

今になって伝えたいことが溢れてくるよ。

不器用でまっすぐな愛をありがとう。

じじ、大好きだよ。

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