なぜ言えなかったんだろう

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お父さんへ

お父さん、80歳なんていう高齢でガンの治療なんて体が悲鳴をあげてたよね。それなのに私たち家族のために危篤になってまで耐えてくれた。それも2回も。

私たちは往生際が悪くて、お父さんがいなくなるなんて認められなくて、無理な延命はしないと考えていたはずなのに、結局治療をお願いして、たくさん無理をさせてしまってごめんなさい。

点滴も、あんなに体がむくんでしまうなんて。苦しかったね。少し冗談めいた調子で「日本の男性の平均寿命まで生きたんだから、もういいだろ?」と言ったとき、どんな気持ちだったんだろう。私はその言葉で、お父さんと別れたくない私のワガママに、お父さんがそれこそ本当に命を懸けて付き合ってくれてたんだと。本当にハッとさせられた。

それからはみるみるうちに弱っていって、それでも私はまだ、父がいなくなるなんて実感がどこにも無かった。実感が沸いたときには遅かった。もう会話なんてできない状態だった。毎日のように病院に行っていたのに、いつ容態が急変してもおかしくないと知っていたはずなのに、伝えられなくなるなんて思い付きもしなかった。

私のお父さんでいてくれてありがとう。たくさん愛してくれてありがとう。私は本当にお父さんが好きだった。ありがとう、ありがとう。どれだけ後悔しても、時は戻らない。でも、届かなくてもありがとうって言わせてください。

本当に伝えたい言葉は、ごめんなさいじゃなくてありがとうだったよ。

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