育ててくれてありがとう

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おとうさんへ

数年前、認知症を患ってから、生来の頑固さ、気難しさに拍車がかかったようなお父さんのことを、疎ましく、腹立たしく、思ったことも何度となくありました。
病気だと分かっていても、腹が立って、怒鳴ってしまったこともありました。
けれど、なぜでしょうね…お医者様から、「会わせたい人がいたら今のうちに」…そう言われてからというもの、涙腺がゆるんで仕方がありませんでした。

まだ意識がはっきりあるお父さんと、最後に会話した時お父さんが私に言ったのは、「何か甘いものが食べたいな」
でも、誤嚥性肺炎だったから、誤嚥の危険があって勝手にものを食べさせることは禁じられていたので、「看護師さんにお願いしとくね」、そう答えることしかできませんでした。
話を聞いて看護師さんが、主治医の先生に相談して、翌日、ゼリーをくださったそうだけれど、食べたくてももう体が受け付けず、残してしまったと聞きました。

そしてそれ以降は、ほぼ意識がなくなり、その言葉が、最後に交わした会話になりました。最後の願いをかなえてあげられなかったことが今も、心残りです。

そしてもう一つの心残りは、この数年ずっと、ありがとうの言葉を言えていなかったこと…。

幼い頃貧しくて、食べることにも苦労した、大学進学も経済的にさせてもらえなかったというお父さんの口癖は「お前たちに、食べる苦労だけはさせたくない」。
その言葉通り、私も妹も、何不自由なく、育ててもらいました。決して裕福な家庭ではなかったけれど、お金の心配をさせられることなく、好きな道を進ませてもくれました。自分のものは我慢して、私たちのためにと。

けれど、改まってありがとうなんて言ったことなかったですね。
お父さんの意識がまだはっきりあるうちに、言葉にして言えばよかった…そう思っています。

お父さん、言えないままでごめんね。
これまで私たちを育ててくれてありがとう。

そして食べたかった甘いもの…お饅頭を棺に入れたから、天国で食べてください。

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