心からのありがとうを

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今から26年前、高校生の私はクラスの男女から壮絶ないじめを受けていました。おとなしい性格が災いしてか、自己主張ができない子でした。うまく周囲と話せず、いじめの対象になっても当然でした。担任に相談しても解決せず、むしろ一緒に加担する始末。

当時の修学旅行は寝台列車での移動でした。2段ベッドが向かい合わせの2つ計4人で過ごす場所に、人数の都合がつかなかったのか男子2名、女子1名、男性教員1名で組むように言われ、私の意見も聞かずに女子1名の分は私の場所になっていました。

今なら考えられないことですし、自分が当時の教員だったとしても異議を唱える場面でしたが、私の意見は誰も聞いてくれませんでした。いじめの主犯格の男子生徒の父親も教員で、担任とは大学の先輩後輩の関係でした。

学校へ行っても、居場所がない。机は廊下に出されていて、担任もニヤニヤして見ていました。教室に入れたくても、すでに一席も入るスペースがないよう、残りの生徒が自分たちの机の位置を微調整して教室を埋めていました。母が作ってくれたお弁当をトイレの個室で食べていました。

当時は今のように通信手段が発達していなかったので、ネットで相談できる場所もありませんでした。逆に、発達していなくてよかったです。今のSNSがあの時代にあったら、私は生きていられないと思います。

電話帳で見つけた、テレホン相談ダイアルがありました。藁をもすがる思いで電話をしました。当時は公衆電話でした。

出てくださったのが、Yさんという女性でした。最初、お名前は存じ上げませんでしたが、私のあまりにも悲惨な状況を見てか、途中からお名前を教えてくださいました。私のことを、Kちゃんと呼んでくださり、私は毎週Yさんの担当日の月曜日に電話をかけていました。

辛かった日々、電話越しにYさんの声が聞こえるだけでただ泣いてしまうだけの日もありました。Yさんはいつも、Kちゃん今日も頑張ったね、私ね、Kちゃんの声聞けて嬉しいな、今日はKちゃんの声聞ける日だって楽しみにしていたのって励ましてくださり、慰めてくださり、一緒に怒ってくださり…。親には言えない気持ちを、Yさんには言うことができました。

本当は親に言えたらよかったのですが、日々の生活が苦しかったため、朝から晩まで懸命に働いていた両親に心配をかけたくなく、どうしても言えませんでした。

美輪明宏さんのヨイトマケの唄のような環境でした。親の世代となった今なら、自分の子供がいじめられていたら教えてほしいし助けになりたいと思います。でも、あの頃はまだ自分は子供で、親の思いに心を寄せることまで頭が回りませんでした。

Yさん、あれから26年。今どうされていますか?Yさんという名字と、Kという私の下の名前だけは交換できましたが、当時の相談ダイヤルの決まりで、相談員の方の住所などは知ることができませんでした。あの頃、確か50代くらいだったかと思います。

今、お元気でおられますか?ひょっとしたら、お空にいらっしゃるのかも知れませんが、どこにいても、いつまでもあのときの優しいYさんのままだと思います。

私はあれから社会に出て、まだよいご縁には出会えていませんが、人並みに仕事もしています。専門学校を卒業して就職が決まったとき、相談ダイヤルにお電話をしたのですが、担当の方はすでに交替されていました。Yさんのことを尋ねてよいか分からず、それ以上聞けませんでした。

私は弱い立場の人を支える仕事につきました。その原動力は、やはりYさんの存在でした。あのときYさんからいただいた多くのご恩を直接Yさんにお返しできないぶん、仕事で出会う方達にお返ししています。

毎朝朝日に、毎晩夕日に、Yさんがお元気でいられるよう祈っています。街ですれ違う人の声がYさんに似ていると、ふと振り返り視線でその人を追っています。いじめではないけれど、仕事で辛くなったときは、目を閉じてそっとYさんを思い深呼吸しています。「Kちゃん、頑張っているね。私、そんなKちゃん大好きだよ」というYさんの声が聞こえてきそうです。Yさんと毎週お話した電話ボックスは、時代の流れですでに撤去されていました。

Yさん、今のいじめ報道を見ていると、心が痛みます。自ら命を断ってしまった子のニュースを見ては、涙がぽろぽろこぼれます。私はYさんがいたから助けられました。今の私に何かできることがないかと、日々考えながらいます。Yさんなら、どのような言葉をかけるのですか?私は、いじめで苦しむ子達に寄り添える大人になりたいです。かつての私に寄り添ってくださったYさんのようになりたいです。

Yさん、本当にありがとうございました。こうして手紙を書いているだけで、Yさんを思い出し涙が止まりません。あの頃は悲しかった涙。今はYさんからの愛情が暖かすぎての涙です。Yさんからいただいた優しさのバトンを、今度は私が誰かにつないでいきます。

Yさん、すっかり大人になった私ですが、どうかいつまでも見守っていてください。私も、いつまでもYさんを思い、励みにして生きていきます。そういえばYさん、いい年して運転免許取りに行っているの…って話してくださいましたね。私もあれから免許をとりました。私の運転でよければ助手席に乗ってくださいませんか。

一緒に見たい景色、話したいこと、食べたいもの、沢山あります。夢の中でもいいので、私の車の助手席、Kさん専用にあけておきますね。飲み物もおやつも、全部私用意しますから。どんなに遠くても、私お迎えに行きますから。Kさん、大好きです。

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