T先生とターコイズブルー

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T先生へ

私の中学2年生の時の担任の先生は2人いました。

T先生は、半年だけの担任の先生。病気療養のために退職してしまったのです。美術の先生でした。

美術は、私が学生時代で一番苦手な教科でした。
時間割にある日は、学校に行こうかどうか本気で迷いました。

というのも、美術の先生が苦手だったからです。

大きなため息をつき、「もう少しどうにかならないの!?」と言う。
その時間が憂鬱でした。もちろん私も、家で絵の具を買ったりして練習しました。

中でも苦手だったのがグラデーションです。
どう頑張っても、綺麗なグラデーションになりませんでした。

そんな中で進級し、担任になったのがT先生です。美術の先生もT先生になりました。
物静かな先生で、クラスメイトは「あの先生イマイチだよね」など言っていましたが、私は好きでした。

私のどんなに酷い絵を見ても、「あら、ここは上手ね。こっちは、もう少しこうやってみたら、もっと素敵になるよ」と言ってもらえるからです。

自分のことを初めて認めてくれた美術の先生でした。
私は少しだけ美術が好きになりました。 

そう思った矢先、先生は体調不良で休みがちになりました。

その時の代わりの先生は、私の絵を見てため息をついてきた先生。
ため息をつかれながら、私は「はやくT先生の授業が受けたいな」と思っていました。

そして、今思えばT先生の最後の授業。
“木材に好きな色の絵の具で絵を描こう”というものでした。

絵を描くことが大の苦手だった私は、色を塗ることにしました。
色は、ターコイズブルーを選びました。
綺麗な色だなと思いながら、一度も使ったことのない色でした。
ただ色を塗るのもダメかなと思い、絵の具セットにあった青系の色をすべて出しました。

ターコイズブルーを少し塗ったら今度は違う青。またターコイズブルーを塗り、違う青…段々と深くなっていく青が綺麗で夢中になっていました。

そしてT先生が通りかかりました。
「あら、綺麗な深海。木目を上手く利用したのね」

それが、T先生が私にくれた最後の褒め言葉でした。

そんなわけで、私が一番好きな色はターコイズブルーです。
水色でも青でもなくて、ターコイズブルー。T先生のことを思い出せるからです。

それを母に話すと、ターコイズブルーの布で小さなリボンを作ってくれました。そのリボンは、私の学校生活の喜怒哀楽を共にしました。

T先生は別の職場でご活躍されているそうです。

先生。本当にありがとうございました。

私が好きになった最初で最後の美術の先生です。

あの深海模様の木、今も部屋に飾ってありますよ。

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