まだ、言えてないけど

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父さんへ

お父さん、昔からよく私達娘のことを怒っていましたね。

よく働いていましたが、私達の事はどこにも遊びには連れて行ってくれませんでしたね。1度だけ家族で白浜に連れて行ってもらいましたが、母と大喧嘩になり、また台風も来ましたね。それ以来家族で旅行に行くことはありませんでしたね。

それでも何不自由なく高校まで卒業できました。決して仲の良い父と娘ではなかったかと思います。どちらかと言えば嫌いだったかもしれません。私も大人になり、親になり、父の人生を振り返る機会がありました。

継母に育てられたこと、継母がとても意地悪だったこと、そんなことは何ひとつ私達には話さずに、ただただ働いて自由に遊んで充実しているように見えました。だから母と毎日喧嘩していても毎日どこかへ遊びに行っても父のいない生活が私にとっては当たり前でした。

そんな中、小脳出血で寝たきりとなりました。いつもいないはずの父がそこにいることに違和感を感じていました。どこへ行くにも一緒に行ったことがない私にとっては、急に出かけることが居心地の悪い気持ちさえ感じていました。

もう3年も前から入退院を繰り返し1年ぐらい前から声も出せなくなり、ご飯も食べられなくなり、栄養を鼻から入れるようになりました。母は、あれだけ毎日喧嘩していたのに、毎日お父さんの所に通い顔を拭いたり、手を拭いたり、水虫の薬を塗ったり、また肩を撫でては声を掛けたりしています。

妹はそんな父さんに日常の出来事を家族の話をひたすら話しかけています。近くに住んでいる孫もよく通ってくれてますね、あれだけ放ったらかしにしていてもこうやって家族が毎日のようにお世話してくれるのはどういうことなのでしょうか、人徳ですね。

私といえば遠くに離れていて、たまにしか帰れませんが何をどう話していいかわからず、戸惑うばかりです。この間痰が詰まり危うく呼吸が停止ししそうになってしまいましたね。その時、私はなんの感謝も伝えることができていないことに気がつきました。ありがとうって言いたい気持ちがあるのに言ってしまったらそれが最後になるような気がして言い出せずにいます。

でもそんな父だけど父なりの愛情で私たちを見守ってくれた事を今では理解しています。本当に今まで育ててくれてありがとうございました。

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