ずっと言えないままのありがとう

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天国へと旅立った同級生へ

中学生の頃、夕飯の支度をしていた母に頼まれて近くのスーパーまで買い物に行くことになりました。
上階から降りてきたエレベーターに乗ると、そこには顔見知り程度で話したこともない同級生の男の子が一人で乗っていました。

特別な感情はなかったのですが、暗い時間に同級生に会うのは何とも気恥ずかしいような感じがして、何だか私はドキドキしていました。

目が合ったので、軽く頭を下げて挨拶すると、
「どこか行くの?」と初めての会話。
「ちょっと買い物しに」と一言だけ返し、彼に背を向けるようにドアの前に立ちました。

長い沈黙の後、ようやく1階について降りようとした瞬間、
少し先の方にガラの悪い、ヤンキー集団がたむろっている姿が目に入りました。
買い物に行くためにはヤンキー集団の前を通過しなければいけません。
「どうしよう…行きたいけどコワイ。。」
そんなことを考えながら足踏み状態の私。

すると背後から「ちょっと待ってて」と言いながら
同級生の彼が私を追い抜かして行きました。

彼はたむろっているヤンキー集団に向かってスタスタと歩き出し、
別の方向を指さしながら一緒に歩いていってしまいました。

その隙に私はダッシュでスーパーへと向かうことができました。

「今度会ったらお礼を言おう」と思いながらも、ずっと言えないまま時が過ぎていきました。

その彼は、中学3年生の時に骨肉腫という病にかかり、卒業式目前に短い生涯を終えました。

同じクラスになったことも、話したこともなかった男の子。
たった1度だけ同じエレベーターに乗り合わせただけの短い時間。
その短い時間の中で、私は彼の優しさに触れました。
ずっと言えなかった「ありがとう」が20年経った今でも心残りです。

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