魔法のクッキー

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あれは、息子がまだ1歳のころ。
夕方、私は息子を膝の上にだっこして電車に乗っていました。すると、飽きてしまったのか、息子がぐずり始めました。
持っていたおもちゃにも興味を示さず、お菓子なども、とっくに食べ尽きてしまいました。

うるさくて困ったな、周りにも迷惑だから次の駅で降りちゃおうかな、とソワソワしていました。
すると、私たちの前に、デパートの袋を下げたご婦人が現れました。
彼女は、その袋の中から息子に1枚のクッキーをくれたのです。

その瞬間、嘘のように息子は泣き止みました。
そして、じっとクッキーを見つめているのです。
そのクッキーには、熊の親子が可愛らしく、色とりどりにアイシングされていました。そして、大人の手のひらほどもある大きさ。
ラッピングは透明の袋に入って、素敵なリボンがしてありました。
どう見ても、すごく高価なものです。

私がびっくりしていると、彼女は「食べちゃっていいのよ。」と言うのです。
お言葉に甘えて、言っても言い足りないほどのお礼を言い、ラッピングをほどき、息子に食べさせました。
息子はもうすっかり泣き止んで、ニコニコしながら夢中で食べています。
まるで、魔法のクッキーです。

ご婦人は、「お利口ね、お利口ね~。」と言って、息子の頭をなでてくれ、次の駅で降りていきました。
このような高価なもの、彼女は誰か大切な人にあげるために買ったのかもしれません。このクッキーを待っている誰かがいるのかもしれません。
なのに、クッキーは目の前でぐずっていた息子に差し出されました。

私は「ありがとうございます。」その一言で終わらせることができないほど、うれしい気持ちと、申し訳ない気持ちがありました。
このクッキーを下さった方、どうもありがとうございました。
この魔法のクッキーは、貴女の美しく温かい心と共に、日々の育児の中の、忘れられない1ページを彩るものとなっています。

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