離れて暮らす母へ

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母へ

「やさしい看護師になってね」

まだ寒い関東の3月下旬。
引っ越しが一段落し、コンビニで買ってきたインスタントコーヒーを飲みながら、母は言った。目をそらしたままだった。
私も目を合わさず「うん」と返した。涙がこぼれるのを必死にこらえていた。
今でも、そのコーヒーの匂いが忘れられない。

就職のために東北の田舎から関東に出てきた私。
今でも仕事でつらい時、悩む時、この言葉を思い出すと、じんわり優しい気持ちが戻ってくる。

私の母は、恥ずかしがり屋で、思いを口にすることが少ない。
そのかわり、いつも行動で愛情ややさしさを表現する人だ。

自分のパートの仕事をしながら、私と弟の部活の送り迎え、お弁当作り、家事。
朝から晩まで私たちの世話をして、夜遅くに寝て一番早く起きる。どれだけ大変な思いをしていたか計り知れない。それでも母は文句を言ったりイライラしたりせずに、いつも優しかった。
天然で可愛い一面もある。

関東で働きたいと伝えた時から今までずっと、「寂しい」とか「帰っておいで」と言われたことがない。反対されたこともない。
年に数回、実家に帰った時には、古くなった家を出来る限りぴかぴかにして待ってくれている。たくさんのごちそうを作ってくれる。食べきれないよって笑っちゃうくらい。
一人暮らしのアパートには、段ボールいっぱいの野菜や果物が定期的に届く。

離れていても、「ありがとう」と照れくさくて言えなくても、私は行動で母に感謝を伝えていきたい。母が、私にたくさんの愛情とやさしさを行動で表現してくれたように。

お母さん、遠く離れていても、大好き。

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